宇宙からの訪問者 NO5   ばあちゃんのお伽噺

僕がおばあちゃんに聞いたおとぎばなし


 この村に昔、とても優しい神山というお婆ちゃんがおってな。その婆ちゃんはことのほか小さな虫や動物などをとても慈しみ、花などの植物などもとても大事に育てていた人がおったそうな。その人は旦那さんと早くに死に別れて、それからずっと独り身で生活して居った。だから鳥や獣までもが少しも怖がらず、馴れ慕っていつもその家の背戸に遊びに来ていたそうや。ある日夕餉の支度をいていた時、玄関に猿が来て、「キイー、キイーと泣き叫ぶ声がしたそうや。見ればその猿は鉄砲傷を負って、身に深手を負うてしもうていた、しきりに向こうの方を指さして、婆さんの袖に縋って、外へ連れ出そうとしたそうなんや。お婆ちゃんはその猿にまず薬をつけてやり、いろいろと介抱したんやけど、暫くして可愛そうにその場で甲斐なく死んでしもうた。婆ちゃんは臨終の時、猿の指さした方角を少し歩いた見たら、向こうから一匹の子猿をぶら下げてくる猟師に出会った。婆ちゃんは事の仔細を告げ、その子猿を猟師からもらい受け、その子猿を今しがた死んでいった親猿のそばに置いてやった。すると、その死んだはずの猿はたちまち起き上がって、子猿を抱き、さも嬉しげにキキーと一声鳴いて、婆ちゃんに感謝するように手を擦り合わせ、伏し拝んで死んでいったという。この様子を表で見ていた猟師は、涙を催して、その後はきっぱりと殺生を止めたそうだ。毎晩夜になるとその親猿の亡霊が現れて子猿に乳を飲ませに現れていたという。
どんな動物でも子供を愛する気持ちは人間と同じ、いやそれ以上に強いものがある。現に新聞などの報道によれば幼い子供を折檻死させたり、ガソリンを子供にかけて焼き殺した親などもいる。全く禽獣にも劣る人間のいることも確かのようだ。

 家の婆ちゃんの日常は小さな畑で四季折々の野菜や花などを作り、それを国道の粗末な無人販売小屋の棚に並べて、一袋百円で売っている。よくしたもので毎日の会計は殆ど間違っていない。中には通りすがりの客だけでなく、わざわざ近郊の町の人が、車に乗って買いに来てくれる。無農薬なので形は少し悪いけれど、結構評判はいいみたいだ。僕の仕事はといえば、学校に行く前に、朝採れたての野菜を袋詰めにして、国道の小屋に並べることだ。品数にして毎日三十袋くらいある。お金はお客様自身に竹筒の中に入れて貰っている。時たまお客様からの励ましのメッセージなども入っていて、婆ちゃんを励ましているみたいだ。
婆ちゃんの得意な野菜は赤カブラだ。八月の初めに、段々畑を野焼きして、その後にカブラの種を蒔く。枯れ枝や枯草を集め、灯油をかけてそのあたり一帯を焼く。火を付ける際に、婆ちゃんはそこに生きる虫達に声をかける。
「オーイ、オーイ、生きたいものはそこどけーや。オーイ、生きたいものはそこどけーや」と、大きな声をかけながら、火を附けていく。そして一週間あとに赤カブの種を捲く。
その時には「オーイ、いい実をつけてくれやなあー」と言いながら種を捲く。この地では婆ちゃんだけが赤カブの栽培をやっている。収穫は十月の下旬ごろになる。
田圃で収穫される米の量は、家族四人の口を糊するだけで、農協には出荷していない。田は山の斜面に作られている棚田だ。その為、耕運機などの機械は入れられず、すべて昔ながらの手作業で行っている。

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