宇宙からの訪問者 NO4 小説  僕の家族  父と母のこと

 僕はいま高校二年生、家族は父と母、それにばあちゃんとの四人暮らしをしている。家には小さな田圃と畑が少しあるだけで、とても質素な生活をしている。五年位前から、父は一年の内、九ヶ月程、臨時の季節労働者として名古屋の自動車会社で働いている。だから今は家にはいない。今度帰ってくるのは正月になる。僕は今までで幾度か母が寂しそうな表情を浮かべているのを何遍か見たことがある。
 僕から見た父と母の性格はものの見事に真逆の性格をしている。父は豪放磊落で傍若無人、おまけに酒も底無しのようだ。まあ、典型的なB型タイプといえる。それに反し母は寡黙といっていいほどおとなしく、まるで封建時代の女性のように淑やかだ。僕から見て、どうしてこんな組み合わせなったのかほんと不思議なくらいだ。でもその磊落な父は意外と筆まめで、便箋に幾枚にもわたって、老いたばあちゃんのこと、母の体の具合、そして僕の学業の進み具合や友達のことを細かく書いてくる。父と母は遠い親戚の関係にあって、昔からの幼友達でもある。祭りの時や正月、盆などの祭事には子供の頃から互いに行き交いしていた仲であった。当然、周囲の者達もいずれ二人は結婚に至るであろうことを予想していた。結婚時の年齢は、父が二十五才、母は二十二歳。その時の新婚旅行は二泊三日で伊豆方面に出掛けたようだ。その時の写真も十枚ばかりあるだけで、二人一緒の写真は殆どない。その後二人で泊まりがけの旅行をしたことはないみたいだ。
 その母はこの半年前から、胃の不具合を訴え、二十日ばかり入院を余儀なくされていた。まだ完全復帰には程遠く、病み上がりの状態といっていい。気落ちしているせいか、母は暇があると、父からの手紙を幾度も幾度も読み返しているみたいだ。今年父は四十一歳。母は三十九歳、ばあちゃんは七十二歳になる。父は百七十五センチを超える背丈があって、肩幅も広く頑健そのものにできている。一方母は蒲柳のたちで生来丈夫な身体ではなく、農家の仕事には向いていないようだ。それもこの間の病気でまた少し痩せたように見える。それでも自分の仕事の休みの日には、朝からばあちゃんと一緒に田畑の仕事を手伝っている。
 母は町の小さな繊維会社で機織りの仕事をしている。結婚してからずっと務めているから、もう十年以上になる。朝、僕を車に乗せて高校に送り、帰りは僕が母の会社に行き、仕事の終わるのを待っている。僕は保育園も幼稚園も知らない。僕が幼児の頃はえづめと云われる駕籠に入れられて、ばあちゃんが働く畑の畦道で一人で遊んでいた。兄弟もなく近所に子供がいるわけでなく、寂しかったことを覚えている。小学校は村の分校に通い、遊び場はもっぱら山や小川、そして鎮守の杜の広場が中心だった。
 いままで僕は囲炉裏端でばあちゃんからいろんなお伽噺を聞いてきた。60ワットの裸電球の下、ばあちゃんは手を動かしながら藁を打ちながら夜なべの仕事をする。それは歳の市に売るゴザ帽子を作るための材料づくりだ。その傍ら母は台所で明日の僕達の朝食と弁当を作る。僕は囲炉裏で皆の餅を焼く。砂糖醤油のこぼれ落ちた甘く香ばしい香りが部屋中を充満させる。僕の家には居間はないけれど、この囲炉裏端が僕にとって特上の居間だ。テレビはあつても山々に囲繞(かこま)れている為、時々電波障害が発生して映りはとても悪いこともある。その分家族の会話はいつも賑やかで笑い声は絶えなかった。
ばあちゃんのお伽噺は童話本に載っているような話ではなく、この土地独自に昔から伝わっている民話ばかりだった。おそらくばあちゃんの創作もかなりはいっていたに違いない。僕は面白かった話をばあちゃんにねだり、その噺を何遍も何遍も聞いた。それが僕の子供の頃の唯一の楽しみであった。

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