宇宙からの訪問者 NO3  小説 僕の家族  村の祭


 


僕の住む村には、昔はもっと大勢の人がいた。五十年前の記録によれば、村には百戸以上の家屋があり、およそ六百人近くがここに住んでいた。雪の事、働く職場の事、また子供たちの将来のことを考えて、今は町に移り住み新しい住居を構えている。現在は村人全部合わせても二十人にも満たないくらいだ。その中で僕が一番若く、あとは殆どお年寄りばかりになってしまった。おそらく日本で一番小さい集落なのかもしれない。
 そんなひっそりした村も、この八月のお盆の時節には当地区に昔から伝わっている「はやし込み祭」が開催され、この村にゆかりのある人達が近隣から応援に駆けつけて、久々に賑わった。この「はやし込み祭」というのは、殿様のお国入りを祝い、江戸時代に始まったと云われている。しかし過疎化の為にずっと中断されていたが、地元保存会の老人達の熱意によって、十五、六年前に再興された祭だ。村人だけでは当然、人手が足りず、町に住む親戚縁者にも応援を頼み、練習なしの即、本番でにわか大名行列を演出する。衣装なども上品なものではなく、まるで乞食の着物のようにつぎはぎだらけの着物を着る。そんな滑稽な仮装をした五十数名がおよそ一時間に渉り、村中を練り歩く。知らないものが見ればまるで乞食の一揆集団そのものに見えるに違いない。先導は大きな箒を手にして「庭ばき」役を務め、街道を掃き清める。次に「やっこさん」や家臣団、そして駕籠に乗った殿様の順に道を練り歩いて行く。母は毎年腰元の役でいやいやながらこの祭りに参加させられている。腰元用の鬘(かつら)を被り、顔はドウランで白く厚化粧を施し、更にその両頬には十センチ程の紅をつけられ、まるで「おてもやん」そのものだ。
 僕は遠く離れて住んでいる父に見せるために、いやがる母の顔を幾枚もカメラに納めた。
行列は最後に伊良神社に着くと獅子舞が披露されて、祭りは大団円を迎える。その日は一般客や報道陣も来て、テレビカメラも回り、観客のカメラの撮影などが賑やかに行われた。そして夕方からは各家々で町に住む親戚などへの応対歓迎行事へと移っていく。その日だけは村の人口は二百人にも膨れあがる。しかし、祭りの終わった翌日は閑散とし、元の二十数名の閑静な村に戻ってしまう。祭りの日の喧騒がまるで嘘のように村はいまは深閑と静まりかえっている。今は出稼ぎに行っている父は今回はやむなく欠席した。以前はこの先導役の箒をもって、ドウランを塗り、おまけに太い眉墨を描き、大層な化粧をして、歌舞伎役者のように大袈裟な見得を切りながら大道を闊歩したものだった。囲炉裏端にはいまも、その拡大した写真が飾ってある。

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