宇宙からの訪問者 NO2   小説  僕の家族


  幸いにも僕の母は隣の石川県の白峰村からこの村に嫁に来た。母が仮に都会育ち、いや近くの町育ちであったとしても、間違いなくこの村の現実を見て出奔してしまったに違いない。北の谷、きたのたに、北谷(きただに) 。この地名の持つ響きに、町の人達はここに住む者達に、一種蔑みに似た印象、或は憐れみにも似た感情を持って居るのかもしれない。これは僕一人のひがみか。
そんな小さな村にも隣接して国道が走っている。その国道を僕の家から車で五分も走れば、長いトンネルを境に石川県に連なって行く。周りの景色は杉木立ばかりで人工物はなにもない。そうだ霊峰白山が首一つ高く聳え立つているのが見える。頂きには夏でもどっさり雪が積もっていて、雪渓が実に美しい。それとここは手取川峡谷の一部にもなっていて、恐竜発掘現場として日本でもかなり有名な所だ。恐竜の骨以外にもアンモナイトや当時のシダ類の化石などが豊富に発掘されいる。現場からは恐竜の部分化石なども数千個程見つかっている。旧道を歩いていると、その山の崖っぷちに幾層もの粘土質の地層が重なっていて、そこをハンマ-で軽く叩けば面白いほど化石が出て来る。二十年前に地元の中学生が偶々その化石の中から黒光りする堅いものを見付けた。それを早速理科の先生に提示したところ、教師も判別がつかず、それを大学の研究室に送り、更に調べてもらったところ、なんと恐竜の歯の一部であることが分かり、新聞のトップ記事にもなった。命名された恐竜の名前は当地の地名をもじり、カツヤマドン、いやキタダニザウルスと命名された。それ以来、当市は恐竜を町おこしの材料に使い、今では立派な恐竜の卵をイメージした県立恐竜博物館を誘致するに至っている。そして現在、年間かなりの観光客を呼んでいる。この博物館の設計は女優の若尾文子さんの御主人である、建築家である故黒川紀章さんだ。
しかし部分々々の化石は出ても、中国で産出するような全身骨格の化石は未だ出土していない。化石といえば死んだ爺ちゃんが持って居た小さな山があって、その山を恐竜を発掘した残土を置かせてくれと県庁の人が我家を訪ねてきたことがあった。そうすると家の山からも将来、恐竜の骨の一片も出て来る可能性もある訳だ。もし新種が出たなら僕にも命名する権利も出てくるというもんだ。
 僕の母の出生地である白峰村とこの北谷村一帯は、昔から平家の落人伝説でよく知られている。其処かしこの田畑で日焼けして働く老人の顔にも、どこかしら平安貴族の血が入り混じっているような気がしないでもない。それが証拠に、何十年も前に、この勝山市でミスコンテストが開催された時、なんと二位に入賞した娘は僕の村の人だった。その時、町の人は「ようあんな山奥の村にあんな奇麗な娘がいたもんだ」と とても皆不思議がっていたそうだ。僕の口から云うのも少し気が引けるけど、母は色白でかなり美しい人だと人からも云われている。背はさほど高くはないが、小顔で均整のとれた身体をしている。おそらくは日本的美人の範疇に入る人だと思う。残念ながら僕は父方の遺伝子を濃厚に受け継ぎ、父親そっくりの醜男の顔をしている。父は自分と瓜二つの僕の顔をひどく気にいっているようだが、僕自身ははなはだありがた迷惑に思って居る。本当は少しでも母親に似れば良かったのにと内心強く思ってきた。これは僕一人だけの想いではなく、ばあちゃんも常々「雄哉は、お母さんのいいところを少しでも貰えたらよかったのになぁ、でもいいか、頭のいい所はお父ちゃん譲りだし、男は顔じゃないからねえ~」なんていって慰めを云っている。

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