父祖の足跡22   わたしの名前はさくら

 ジョンが死んでから20年の歳月が瞬く間に流れた。またぞろ犬が欲しくなってネットで検索していたら、福井市にお住いの方が柴犬の養い親を募集していた。僕は早速その方に電話してみたら何日かしてその夫婦と小学生の娘さんが犬を連れて我が家を訪れた。その日は市内の祭(左義長)前夜で短尺が町中をはためいていたのでよく覚えている。その方は内科のお医者様で奥様は上品な方だった。子犬の名前はさくらといった。名前はそのまま受け継ぎ朝夕の散歩は娘が欠かさずおこなつている。あれから九年の時が過ぎ、そのさくらも今ではまつ毛も髭も真っ白になり、長い距離の散歩は出来なくなっている。しかし車に乗るのが好きで、窓を開けると両手を精一杯出して、気持ちよく風をうけながら周りの風景を眺めている。先日、今度できたばかりの大野市の荒島岳の道の駅に行ったら、そこで老夫婦と娘さんと黒柴を連れた人達と暫しの時間談笑する。話は犬の話で盛り上がった。その奥様曰く「私の腕を見てごらんなさいよ。これ三日前にこの犬に噛まれましてね。よく噛むんですよ。甘噛みならいいけど本気で噛むんですよ。私、それで県立病院で手当てを受けたばかりなんです。お宅の犬はどうですか?」と 僕も「しよっちゅう噛まれます。いつも世話している娘にさえも噛みつき病院で手当てしてもらったことがあります。それとこんなに気が強いのに雷の音が鳴り出すと、とたんに元気を喪失し、戸棚の中に身を潜めてしまう臆病な所もあります。その点、昔飼っていた雑種の犬達には噛まれたことは一度もなかったけど、柴犬の純血種はその点で気がつよいですね。なにしろ世界中の犬の中で狼のDNAが一番近いそうだから  」僕は昔飼っていた犬達を時々懐かしく思うことがある。人間同様、犬達にもそれぞれ務め、天命を持って生まれてくる。さて、このさくらは果たしていかような天命が待っているのだろうか。年齢的にもこれが僕にとっては最後の犬になる。今は僕のパソコンの横で身体を丸めて眠っている。

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