宇宙からの訪問者 NO30  小説 今、天界で働いておられる円海翁について

 雄哉君、君は信じないかもしれないけれど、彼等行者はすべて長命だ。百五十歳から二百歳は普通で、中には四百歳、たまには五百歳の長命を保った人も、古今に何人か居られた。僕が先に江戸時代に知り合った、仇討の旅を続けた人こそが、この円海翁なんだ。彼は昭和二十三年迄、この大峰の山中に住まわれていた。その時の年齢は百八十数歳を過ぎていた。その頃は仙人館で一番の長老で子弟の養成をなされていた。しかし彼は後進の者を選び、
後事を託して「日本の山は狭い」と云って空を飛び、チベットの深山に移り住み、その山奥で一人修行を続けられた。そこで何年か経過して「天より帰れ」の命を受けて、その山中で身体を自ら土中に埋め、見事昇天の行を果たされたのだ。その円海翁はいまどうしているかって、彼は今天界でミキョウ貴尊として縦横無尽の働きをなされている。彼を呼ぶ正式の呼称は、ヂショウ.サンキョウ.インショウ.ミキョウ貴尊と呼ぶ。君が一心不乱に貴尊を呼べば、必ず彼に通じるはずだ。貴尊の忙しさは筆舌に尽くせない程だ。なぜなら貴尊の仕事はこの地球単位の救済の仕事だけでなく、全宇宙の生きとし生けるもの総ての生命の運行を監視する仕事に携わっておられるからだ。この地球上でも毎日毎日、人も動物も数え切れぬ程亡くなっているだろう、まして全宇宙だったらどれほど夥しい数の魂になるだろう。その動物魂とも人間魂とも知れぬ夥しい魂達をあやまつ事なく、瞬時に的確に選り分けてゆく仕事をなされているんだ。その場所は選魂所と呼ばれている。こんな場所は全宇宙に数多くあって、そこで天使達は稔った魂を次なる世界に送り込んだり、また破棄されるべき魂は魂屑として完全に処理峻別されて行くのだ。処理を待つその魂の集団となったかたまりは、まるで天の川の銀河の流れの様にどこ迄も延々と続く膨大なものだそうだ。
 天使の方々は一日中、眠ることも、食することも、憩うこともなく、唯己が任務を任務として働きつづける。天使達はこの無限大ともいえるこの大宇宙を仮に距離でもって計測できるものなら、その端から端までを移動するのに一秒の何分の一かで往復できる力を賦与されている。この何千億兆光年あるやも知れぬこの大宇宙をだよ。天使方はこの地球のような惑星も瞬時に創造もされ、破壊も出来る力を持たれている。更にはこの全宇宙の隅々に迄肉声を送ることが出来たり、耳をそば立てれば全宇宙の生物の声を聴くこともできる。まるで神様のような方々だね。でも天使の方は私達は神ではなく、人類が進化した者であって、決して神ではないと申されている。このような力を与えられていなければ、神の僕(しもべ)として宇宙の進化のお役に立つことができないのだとも云われておられる。
 円海翁はこの地球に生まれ、物凄い荒修行をされたことによって、僕等の世界、階級を遥かに超えて一足飛びに駆け上がり、天使になってしまわれた訳だ。そして今はミキョウ貴尊として働かれている。あの泰岳大師も同様、コーセイ.ミキョウ貴尊として、全宇宙を駆け回って、更なる上位の界に進むため修行されておられる。
 余談だが昔、円海翁が入門当初、仇として探しておられた方も、このお山で修行されて立派な大徳の聖者になっておられたそうだ。奇妙な巡りあわせだね。これが縁の不可思議といわれるところさ。

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