宇宙からの訪問者 NO28  小説 泰岳大師の修行中の奇跡


 又ある場合、泰岳大師が警蹕(けいひつ)といって大きな叫び声を出すと、人は勿論のこと、熊なども気絶させる力を持っていた。ある事情があって仏像の真贋を確かめるために仏像を警蹕で粉砕したこともあった。僕はこの泰岳師が人に会う方法、別名招魂の法を弟子達に伝授しているのを見たことがある。それはどんな法かというと、まず、指で枕に大きな〇を書いて、その中に小さな〇を書き、その小さな〇の中に女を呼ぶ時は、左から右に横線、男を呼ぶ時は上から下に線を引きながらその名前を呼ぶと会えるという。生きた人、死んだ人を問わない。この法は熟練すればやがて出きるようになるそうだ。
なあ、雄哉君も一度やってみて、亡くなったお爺さんと夢の中で話し合ってみるといい。
一度や二度ではこの技は習得できないよ。何年もの修行が必要だ。
じゃあ、ここで先程の「喜心録」から、君に伝えたい面白い挿話があるから、それを紹介してみょう。
 円海翁が泰岳大師に聞いた。
「貴方は何が一番嫌いですか」とすると彼は「わしは殺生は大嫌いじゃ。他には好きも嫌いもない」と云われた。そこで私(円海)は、「では、貴方は殺生はしませんか」と念を押すと、「決してせぬ」と云ひますので、「それでは日々の食事は殺生ではないのですか」と彼を試すつもりの悪疑心からからかい半分聞いた事が、私にとっては生涯修行の一大教訓となろうとは夢にも知りませんでした。彼はなんと答へたと思ひますか。こうなんです。彼は真面目になって、私を睨みつけて重い口調でこう云った。
「お前は食事をするのを殺生で食うのか。そんな事ぢゃから、わしの倍も食うて痩せるのじゃ。死んだものでも又活かせ。生きたものなら死なぬようにして食え。そして死んだものを活かして使へ。わしは殺生は嫌ひじゃ。殺生するものは尚嫌ひじゃ」と恐ろしい剣幕に睨まれた時は、さすが図々しい私も彼の前に頭を下げない訳にはゆかなかったのです。
 私はその事を師の坊に申し上げますと、師の坊は暫く考へておられましたが、何を思はれたのか、全部の徒弟を集めて彼等の錫杖を一か所に並べさせ、「泰岳よ、この中にある汝の杖はどれじゃ、そこから指して見よ」と云はれますと、彼は立とうとも見ようともせず、唯大声で「杖、来い、杖、来い」二声云うと、一本の錫杖はすべるように彼の手元に行ったのです。彼は静かに是を師の前に差し出して「是でございます」と我名も見ようともせず、差し出した。師の坊は姓名を見ると杖には彼の名は確かに記されている。他の弟子たちは是を見て、泰岳は師の前をも憚らず魔法を使ったと騒ぎ立てるのを師の坊は手を振って是を制止し、「汝等、静かにせよ。泰岳は魔法を用いるならば我は許さぬ。さりながら今、彼の行ひしは決して魔法にはあらず。真実なり。円海よ、是によりて彼の言葉で明らかなり。我、彼に代わって汝等すべてに説き聴かせん。

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