第十四回 ありがとう参り 「淡々と生きる」 小林正観さん

小林正観さんの著書「淡々と生きる」より


  その十一月から遡ること五カ月、忘れもしない六月三十日に聞いた言葉があります。我が人生を根源的に揺るがしたものすごい言葉でした。
私たちは、伊勢神宮への夜間参りをする習わしがありました。2006年から六回続く私たちの最大の行事で、日の暮れた午後八時からお参りします。神様に向かって、ああして欲しい、こうしてくださいと夢や希望をおねがいするのではなく、唯々「ありがとう」と感謝の言葉をお伝えするだけのお参りです。お礼を申し上げる時間は三分間。
 総勢六百人が「ありがとう」を繰り返していると、風もないのに、聖なる領域とこちらを隔てている帳(とばり)がすっと上がります。伊勢神宮では「御帳」と書いて「みとばり」と読みますが、その布がツ-ッと上がるのです。全員が「ありがとう」だけをいうと上がるのです。「お願い事」をしている人がひとりでもいるとあがりません。全員が「ありがとう」を行った時だけ、なぜか帳が上がります。風もないのに不思議です。誰かが電動スイッチを押しているとしか思えない。どこかに電気仕掛けの巻き上げ器でもあるのかなと見渡したのですが、それらしきものはありません。神様が喜んでおられるのが感じられます。
 こういうお参りが許されるのは、年間四、五組だけで、申し込みの殆どが断られるそうです。民間の団体が参拝したいと申し込んでも、一万組断られる。悉く断っているにもかかわらず「あなた方はよい」ということになりました。神官の方にお尋ねすると、神様がよしとするかどうかを識別する方法があるそうです。光のない真っ暗な部屋に、弦の張っていない琴を持って神官がこもり、もくぎょに使うバチで琴の胴体部分をこんこんと叩くのです。それと同時に琴に向かって神官が口笛を吹きます。吹くというより、す-っと息を長く吐く。息が琴に当たると、ある種の反応が示されます。その反応を見て、神様がよしとしているかどうかを見届けるというのです。神官の方々が私たちの為にわざわざその儀式をやってくれました。その結果がオ-ケだったのです。伊勢神宮の神様は天照大神です。皇室の氏神であり、日本の国のいちばん偉い神道の神様です。皇室は神道の総宗家です。
 参拝する日取りが十二月三十一日という案もあったのですが、それでは寒いという私のわがままで、六月三十日に決まりました。この日は一年の真ん中で、なにより暖かいのです。2006年の六月三十日、これが第一回目です。インターネットで知り合いに参加を募ったら、六百人近い人が集まりました。2006年を皮切りに、2007年、2008年、2009年、2010年、2011年と回を重ねて続いています。

 六月三十日というと梅雨の真っ盛りですが、2006年は雨が降らなかった。翌年、天気予報は雨でしたが降らなかった。その翌年も天気予報は半分くらい雨でしたが、これまた降らなかった。六回連続して降らなかった。伊勢神宮の人に、あなた方の場合、何故雨が降らないのかわけがわからないと言われました。明治以来ずっと記録をとってあるそうですが、天皇が伊勢神宮に詣でると、その日の天気予報が雨であっても必ず晴れるそうです。伊勢神宮では「天皇晴れ」というそうですが、正観さんのグループは天皇晴れと同じことがおきていますね、と言われました。おもしろいですね。

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