宇宙からの訪問者 NO33  小説   最終章 第三  神詞  厳戒の辞を教えられる

 僕はその後、急に意識が朦朧とし、その場で気を失ってしまった。どうやって家に辿りついたか少しも覚えていない。気が付いた時には家の玄関先で母に揺り動かされていた。右手にはコーシン.リョウジャから貰った手紙をしっかりと握りしめていた。それは手紙というよりも電子媒体で書かれたDVDのようなものだった。

 母は眼に一杯涙を浮かべて、
「お前、いままで何処に行っていたんや。もう心配で、心配でそこら中探してまくったんやぞ・・・・・・」と母は僕の胸を幾度も幾度も小突いた。僕はどうして我が家に戻ることが出来たのか、さつぱり記憶になかった。見上げれば煌々と夜空には満月が輝いていた。ああっ、もうあの人は出発してしまったんだ。もう二度と逢えないんだ。今日あったことを忘れずにしっかりと覚えていよう、そう思いながら僕は深い眠りに入っていった。その日から二日間四十度の高熱が続き、僕は臥せったり、起きていたりしていた。気分のいい時に、僕は母に出逢った宇宙人の事を細かいことまで話をした。母は、「お前、狐か何かに誑(たぶら)かされたんだよ。昔からよくこの村の人がお前みたいに騙されたことがあるんだから」と全くとりあってくれなかった。
 でも僕の頭の中には宇宙人が教えてくれた神詞である厳戒の辞、「チ.シュ.キュ.ジョウ.ギョウ.コウ.フク.セン」の八文字十五音の言葉が鮮明に響ていた。
「あれは夢の中の出来事なんかじゃ決してない。まさしく現実そのものだったんだ」と僕は自分に強く言い聞かせた。僕の精神に異変を感じたのはそれから暫くしてからのことだった。
 母が会社から帰って、疲れたのか床を敷いて休んでいた。聞けば時々胃がさし込むように痛むらしい。こんな山奥ゆえ、医者の往診を頼むのも難しい。といって母が車を自ら運転して町まで行くのはもっと無理だ。僕は母の傍らに座り、背中をさすっていた。
母が云う、「お前の手はとても温かいね。なんだかとてもいい気持ちになってしまった。痛みも和らいで、もう大丈夫みたいや」それから母は床を出て、普段通り食事の支度をして風呂にも入った。
母はおばあちゃんに云った。「雄のお陰であんだけ痛かった痛みが嘘のようにのうなってしもうての、不思議やな。不思議なこともあるもんやな」と
 また或時、ばあちゃんが畑で足首を捻って、畑から足を引きずりながら帰ってきたことがあった。僕はその痛む足首を両手で擦ってあげた。そのあと、ばあちゃんは横になって寝ていたけれど、暫くして起き上がってきた。
「雄哉、おめえには不思議な力があるなあ。もう捻った足首はどこも痛くねえほら、この通りや。と両足で平然と歩いて見せた。
そのことが評判になって、病気直しを頼まれることが次第に多くなった。
ある時など、何年も寝たきりの老人を十日間程毎日見舞ったことがあった。毎晩、背中と両足を撫でさすり、心の中で厳戒の辞を称えた。その老人でさえも僅か二週間で床から這い出し、両便のことも自分で出来るようになった。

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