宇宙からの訪問者 NO34  小説   最終章 第四  雄哉の奇跡

「雄ちゃんのお陰で、こんなにうちの爺ちゃんが元気になった。もう何年も前から医者にも見放されておったんやから、本当に有難いことや」と感謝の言葉を頂いた。
僕自身もやっていて半信半疑だったけど、現実に人が治って行くのを見て、信じざるを得なかった。宇宙人との邂逅が僕の力、いや、人間が本来持っている力を覚醒させたのだと僕は考えた。次第々々に、その評判が拡がり、今では町の人だけでなく、隣の県の人までが、僕を尋ねて来るようになった。その人達はお金を紙に包み、僕に差し出したが、僕はそれを一切受け取らなかった。それはなぜかというと、村の人が教えてくれたことに起因していた。病気直しを商売にして、お金を受け取っていると、次第にその能力は失せて行くものだ。その力を大事に使いたかったら、相手から真心だけを頂戴し、お金は決してもらってはいけないとの、アドバイスだった。
 初めは宇宙人のことを信じていなかった母までが、今では信じてくれるようになった。又
学校の生徒達は僕に宇宙人と出逢った時の様子やその話の内容などを詳しく教えて欲しいと、何度も懇願された。ついには高校の担任の先生からも要望されて、放課後、体育館で一時間余りに渉って、訥々とその話をする羽目になってしまった。集まったのは生徒だけでなく、教師とPTAの父兄達も数多くその場に集まり、立見席も立錐の余地が無いほど一杯になったほどだ。僕は今迄人前で話などしたこともなく、固辞したのだが、先生方の強い懇請があってやむなく引き受けることになってしまった。会場はしんと静まりかえり、しわぶき一つなく静聴していただいた。その会場の中程の席には父と母それにばあちゃんの姿もあった。きっと父は心配で名古屋から駆けつけてくれたのだった。講演会とは名ばかりで、僕が十分程おおよその概略を説明し、あとは質問に対する答えという形式で時間は進んでいった。どんな質問が多かったかというと、
宇宙人はどんな顔、どんな姿をしていたか。
宇宙人とどうして意思疎通させることができたのか。
君は円盤の中に入ってみたのか。
彼等には地球侵略の意思はなかったか。
君はさらわれる恐怖はなかったのか。
七時間も八時間もの長い間、どんな話があったのか。
君は病気直しの他にどんなことができるのか。等々
僕はそれらに答えながら、訥々と宇宙人が僕に伝えたかったことを出来るだけ詳細に皆に伝えた。あとから考えてみれば、宇宙人、コーシン.リョウジャとの出逢いは単なる偶然でなく、間違いなく彼が僕を呼び寄せたに違いないと確信するようになった。
  その会が開かれた晩、僕は父と長い時間話し合った。
「雄哉、今日はいい経験をしたな。父さんもそんな経験は一度もない。羨ましいぞ。
話し方はともかく、なかなかに腹が据わっていたぞ。段々に話は上手になって行くさ、半年前のお前とは全く別人格のようだ。正直言って、お前の成長した姿を見て、本当に感心した。なあー、母さん。でもなあ、超能力を持つということは、お前の人格とは全く関係ない。かえって、それを持つことによって、これからの行動、言辞に充分注意を払い、より謙虚な心を持つ必要が出てくる筈だ。人はお前の持つ力に羨望を感じて、如何なる陥穽を敷くかもしれぬ。これからはその事を踏まえて、気を付けることだ。又村の人の注意で金銭を貰わなかったことは良かった。
 父は中学校を出ただけだったが、本来の負けん気と学習意欲で、大学出の人と比べても、少しも遜色はなかった。しかし、口に出しては云えぬ屈辱と社会の厚い壁があったことを僕に静かに話してくれた。父は本当は高校だけでなく、大学にも進みたかったのだ。その能力は充分にあって、教師達からもとても惜しまれていた。しかし爺ちゃんの早世でやむなく進学を諦めざるを得なかった。それもたつた十四歳で家長の立場に置かれたのだから、本当に辛かっただろうと思う。

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